禍転じろ福と為せ。

実によくある備忘録。

人生の枷①


義務教育という名の枷を掛けられていたのも、もう七年前。

大人の真似事でブログを書いた事もあったが、気付けば更新していない。


そしていつの間にやら、酒を嗜み、深夜に煙草を燻らせるごく一般的な頭の悪い成人になっていた。

三日坊主になるかもしれない事は否めないが、気が向いた時に認めるお気楽な日記としてまた始めてみようかと思う。



模倣をしていた頃は、学校に毎日通い申し分無い成績を取り、父に言われた「体調不良以外では学校を休んでは行けない」「七十点未満は取ってはいけない」というルールを守っていた。

父子家庭の我が家では、父の言葉には従わなければならないというルールがあると思っていた。叱られて次の日も同じような事で叱られてを繰り返し、毎日のように説教喰らっていた私にとって、父は厳格で怖い存在だと思っていた。

父より恐れる人物はいないと思っていた。


そこに刺客が現れたのだった。



彼女が初めて現れたのは、私が中学二年生の時の大晦日だった。

父が小学校の同級生を家に招き、同窓会兼忘年会を開いていた。そこに彼女はいたのだが、その日は父の友人が数人集まっていた事もあり、恥ずかしがり屋で人見知りな私は隅でひっそり食事していた。彼女と話した記憶は無くあまり認識していなかった。


それから一、二ヶ月ほど後だろうか。彼女はまた家に訪れた。

今度は父の友人が他に来る訳でもなく、彼女一人が来たのだった。父はよく友人を家に呼んでいたこともあり、私もあまり気にはしていなかった。ただ、リビングでソファーに寝そべりDSが出来ないので早く帰らないだろうかと「なんてまあ失礼な子供なんでしょう!」と叱責を頂きそうな事しか考えていなかった。

とりあえず、一言だけ挨拶して普通に過ごしていたが彼女に何か嫌な雰囲気を感じ取っていた。多分この人は自分の苦手なタイプだろうなと。


しばらくして父が私と妹を呼び、食卓の椅子に座るように言った。


「二人に言わないといけない大事な話があるんだけどね。」

何か嫌な予感がした。


「実はパパはこの人とお付き合いしてます。」

おおおう、それ以上言わないで欲しいなぁ〜。


「それでパパはこの人と結婚したいと考えてるんだけどね」

あーーーー。言っちゃいましたよ。


「パパだけじゃなくて二人の家族、『お母さん』になる訳だから、結婚してもいいか聞きたいんだ。」

げげげ、まーじかーーーー。


いきなりの事で、頭の中でサーカスが開催された。

ピエロが一輪車に乗りながらジャグリングし、ライオンが火の輪をくぐり、空中ブランコ乗りが宙を飛び交った。


「二人がイヤなら結婚は出来ないと思ってる。ちゃんと二人の気持ちは尊重したい。」

待て待て待て。実質初対面で何も知らないこの人がいきなり家族になるんか???急すぎるだろ……脳内サーカス開演してもうたよ?

え?てか付き合ってたん????いつから????いつからよ!?!?!?

ファー!!!



「どう思う?」

父の言葉で我に返る。

父は離婚してしばらく経っていたが再婚はしておらず、私の中でも再婚するということは全く考えても無かったのでただただ仰天カーニバルが続く。だが、顔には出ていなかったと思う。出ていなかったと言うよりは、出さないように努めた。

私達にそんなことを聞かれたって困るだけなのだ。しかし、私ももう中学三年生になるし、来年には高校生だ。大人に近い思考くらいは出来る。


「結婚してもいいよ。」

父だって、一人の男なのだ。

恋愛くらいするだろう。


私達二人の意見によって彼の幸せが失われるのは間違っている。人の結婚に口出しなんてすべきでは無い。この先の人生、父がパートナー無しで子供二人と生きていくのは祖母も心配するだろう。この人と結婚することが父の幸せならば……

私は不運なことに、とってもお利口ちゃんだったのだ。


そしてこの時、私は今後の人生に「義理の母」という新たな枷を付けて生きていくことになるとは想像もしていなかったのであった。